その日の天使(11月17日)
父から母の現状をメールで教えてもらった。母は肺に癌が転移していて、さらに肺炎を起こしているため、抗がん剤治療が出来ない状態だという。父の膀胱癌の手術は12月1日に決まったらしい。文面だけで、ふーっとため息をついてしまった。明後日の午前中、一度帰れるように諸々仕事を調整してもらっている。ただ、さっき無理かもしれないと言われた。
最近一度帰ったときは、母は咳もなく、食欲もあった。帰りは駅まで送ってくれるほど元気だった。改札までの階段がキツそうだったので、母の手を取ると、突然涙ぐみ、いままでありがとうね、と言い出したので困った。なに言ってんの、としか返せなかった。そのあと、これも持っていきないさい、と手さげ袋を渡された。中身はハンドタオルが6枚、靴下が3足。それに茶封筒。茶封筒を開けようとしたら、後でにしなさい、と母は言う。今生の別れのような手紙が中に入っていそうでこわかった。東横線に乗って、しばらくしてから茶封筒を開けると、中には十万円入っている。母にすぐにメールを送った。母からは、これから寒くなるからコートを買いなさい、とだけ返ってきた。
中島らもさんの『その日の天使』という短いエッセイが好きだ。らもさんは言う、人にはそれぞれその日の天使がいる、と。あるとき、らもさんは仕事で追い詰められる。締め切りに追われ、体調を崩す。冗談にでも「いま自殺したら」と考えてしまう。そのとき、「おいも〜♪ おいも♪ おいしいおいも♪」と、焼きいも屋のアナウンスが聞こえてくる。らもさんはそれを聴いて思わず、フッと笑ってしまう。らもさんにとって、それがその日の天使だった、というお話。
それなりに落ち込んでいた深夜、思いがけない人からメッセージが届いた。元気の塊みたいな男の、それはそれはのんきな、くだらないメッセージが届いた。読んでいて、あまりのバカらしさにフッと笑ってしまった。ありがたかった。間違いなく、そのメッセージは昨夜の天使だった。