その日の天使(11月17日)

父の病状と母の現状。中身はハンドタオルが6枚、靴下3足。それに茶封筒。トニー滝谷。
燃え殻 2025.11.17
読者限定

父から母の現状をメールで教えてもらった。母は肺に癌が転移していて、さらに肺炎を起こしているため、抗がん剤治療が出来ない状態だという。父の膀胱癌の手術は12月1日に決まったらしい。文面だけで、ふーっとため息をついてしまった。明後日の午前中、一度帰れるように諸々仕事を調整してもらっている。ただ、さっき無理かもしれないと言われた。

最近一度帰ったときは、母は咳もなく、食欲もあった。帰りは駅まで送ってくれるほど元気だった。改札までの階段がキツそうだったので、母の手を取ると、突然涙ぐみ、いままでありがとうね、と言い出したので困った。なに言ってんの、としか返せなかった。そのあと、これも持っていきないさい、と手さげ袋を渡された。中身はハンドタオルが6枚、靴下が3足。それに茶封筒。茶封筒を開けようとしたら、後でにしなさい、と母は言う。今生の別れのような手紙が中に入っていそうでこわかった。東横線に乗って、しばらくしてから茶封筒を開けると、中には十万円入っている。母にすぐにメールを送った。母からは、これから寒くなるからコートを買いなさい、とだけ返ってきた。

***

中島らもさんの『その日の天使』という短いエッセイが好きだ。らもさんは言う、人にはそれぞれその日の天使がいる、と。あるとき、らもさんは仕事で追い詰められる。締め切りに追われ、体調を崩す。冗談にでも「いま自殺したら」と考えてしまう。そのとき、「おいも〜♪ おいも♪ おいしいおいも♪」と、焼きいも屋のアナウンスが聞こえてくる。らもさんはそれを聴いて思わず、フッと笑ってしまう。らもさんにとって、それがその日の天使だった、というお話。

それなりに落ち込んでいた深夜、思いがけない人からメッセージが届いた。元気の塊みたいな男の、それはそれはのんきな、くだらないメッセージが届いた。読んでいて、あまりのバカらしさにフッと笑ってしまった。ありがたかった。間違いなく、そのメッセージは昨夜の天使だった。

この記事は無料で続きを読めます

続きは、129文字あります。

すでに登録された方はこちら

読者限定
相談の森(12)
サポートメンバー限定
最近、ビールが美味くなってきた(2月15日)
サポートメンバー限定
人はたまに、人間以外の動物を、ぼんやり眺める時間が必要だ。(2月14日...
サポートメンバー限定
スピリチュアルなことをひとつ(2月13日)
サポートメンバー限定
人は腰が痛くないから暴言が吐ける(2月12日)
サポートメンバー限定
「離婚届の証人になってほしい」底なしの出会い#13
サポートメンバー限定
『それでいいよね?』朗読(2月11日)
サポートメンバー限定
今週発売の週刊新潮は、(2月10日)