「離婚届の証人になってほしい」底なしの出会い#13
「離婚届の証人になってほしい。いま近くにいるから、ハンコ持ってきてくれない?」
そのLINEが来たのは、今日の午前十時過ぎ。バリバリ打ち合わせ中だった。送り主は銀座でワインバーを営んでいる四十代半ばのママ。彼女はとにかく中途半端な人だ。
打ち合わせ中だ、と告げると、「ハンコ押して、名前と住所だけ書いてくれればいいからさ、抜け出して来てよ!」と非常識極まる返信が届く。
「アンタが書いてるの見てたら、私もやっぱり物を書いて生きていきたいなと思ったから、フリーペーパー作ることにしたの。だからエッセイ書いてよ。タダで」彼女から、そういう内容のLINEが届いたのは三年とちょっと前だった。
何重にも失礼だと思ったが、ほぼ一言一句本当の話だ。そして断ればいいものを、僕はエッセイを書いて彼女に送ってしまった。その頃かなり仕事が忙しくて、断るのすら面倒だったからだ。
「ありがとう! いいモノにするね」彼女は意気揚々とそう返信してきたが、三年とちょっと経っても、フリーペーパーは完成していない。とにかく中途半端なのだ。
あるときは、「モデルになることにしたわ」と突然言い出した。多様性の時代、いろいろなモデルがいてもいい。ただ、あまりにも普通の体型で普通の顔過ぎじゃないか! と突っ込みたくなるくらい、彼女は一般的な体型と顔の持ち主だった。
モデルに挑戦したくなった理由は、「雑誌を見ていたら、モデルがカッコ良かったから」というもの。そのくらいの動機から始める人もいるかもしれない。ただ、四十代半ばでその理由は、相当マズイだろう。しばらくすると彼女は、「モデル? 誰がモデルなの? 誰かモデルになりたいって言ったの?」くらいすっとぼけて無かったことにしていた。
そんな彼女が結婚したと知ったときは、周り全員驚いたが、飲みに行ったバーで知り合った職業不定の男性と一週間付き合って籍を入れたと聞いて、誰もが納得した。また始まった、くらいの気持ちで全員流していた。