「俺が最後に演奏したい場所」底なしの出会い#04
日比谷野外音楽堂が改修工事に入った。僕にとって、改修前最後の日比谷野音は、「GRAPEVINE」のライブだった。
ボーカルの田中さんとは同い年で、たまにLINEをする仲だ。酒が残るようになったことや、私生活のあれこれ、小説の話などもする。田中さんがコロナ禍に書いたエッセイ『群れず集まる』は傑作だった。いつか小説を書くよ、と会うたびに田中さんは言っている。絶対ですよ、と僕はそのたびに返す。
八月の終わり、猛暑の日比谷野音。午後四時過ぎ、もうすぐライブが始まるという時間。薄っすら白い月がビルの間から見えていた。紫色の空。まだ陽がある。隣の席は音楽ライターの兵庫慎司さん。このライブの記事を書くため、もうなにかをメモ帳に書き込んでいる。
そのとき、ポンポンと肩を叩かれ、振り返ると「マカロニえんぴつ」のはっとりくんがチューハイを二つ持って、「これ、兵庫さんと飲んでください! また今度ゆっくり」と笑顔を見せてくれた。はっとりくんと知り合ったのは、もう七年前のことだ。中目黒の立ち飲み屋で、共通の友達が彼を連れてきて、すぐに意気投合して、小説の帯文まで頼む仲になった。
「あの、いまちょっといいですか?」今度は四十代くらいの女性三人が、僕に話しかけてきた。「この間の横浜ベイホールでのライブのあとに一緒に写真を撮った者です。今日、写真を焼いてきたんです」そう言って、写真を渡してきた。一ヶ月前にあった、これまたグレイプバインのライブ終了後、彼女たちに声をかけられ、一緒に写真を撮ったことを、写真を見て思い出した。
そのときの写真をわざわざ焼いてきてくれたという。写真の中で、女性たち六人に囲まれる僕は、性別や年齢の差を越えて、まったく違和感なく、茶飲み友達のように見えた。思えばずいぶん年を取った。今日もいいですか? と彼女たちのひとりに言われ、また僕たちは写真を撮った。
そのあとすぐ、ライトが落ちた。会場BGMが一度大きくなってから消える。メンバーがぞろぞろと出てくる。ライブが始まる。