「いい仕事ね。どこでもできて」(1月28日)
※連日 暗い日記ですみません。
午後一時半から、母の病室へ行く。父と母は、緩和ケアについての手続きなどのため、席を外し、病室に、母とふたりになった。
酸素マスクをしている母は、うつらうつらとしている。たまに、「あなた、帰りなさい」と言う。わかったわかった、と返すと、「仕事してきなさい」と今度は言う。じゃあここでします、と母のベッドの傍らで、ノートパソコンを開いて、カタカタ原稿を打ち込む。
昨日までに送らないといけないものが三つあった。どうしても出来なかった。ひとつは旅の原稿。もう一つは某雑誌のコラム。それにすっかり忘れていたアンケート用紙。
気づくと母が寝息をかいている。酸素の機械の音。廊下で、看護師さんが医者を呼ぶ声。その中でしばらくカタカタと原稿を書いていた。
いつの間にか起きていた母が、「いい仕事ね。どこでもできて」と酸素マスク越しに声をかけてきた。「いいでしょ」と母に打ち込んだ原稿を見せた。「へー」と母は薄っすら笑ってくれた。
病院の窓から下を覗くと、公園が見える。子供たちがドッジボールをしていた。補助なし自転車の練習をしている女の子がいた。少し先には、健康ランドの緑色の看板が見える。そのもっと先には、キラキラとパチンコの看板。延々とつづく車のライト。大きなビル群が遠くに見えた。
自販機コーナーに、ホットの焙じ茶を買いに行くと、車椅子の二十代くらいの男性が先に買い物をしていた。すれ違うとき、「すみません。今日外寒いですか?」と聞かれ、「はい。寒いです」と答えた。「そうでしたか。ありがとうございます」彼はお辞儀し、車椅子で病棟に戻っていった。