父、大演説をかます(5月10日)
昨日夕方、実家に顔を出した。父は思っていたより、元気そうだった。
地元の友達四人も一緒だった。四人とは小学校低学年からの関係で、四十年以上の仲になる。それぞれ職業は、外資系のサラリーマン、印刷会社営業、出版社営業、大手スーパーマーケット社員。趣味も合わない。でも細々とずっとつづいてきた。
父も彼らのことはよく知っているので、終始ニコニコだった。各々、母に線香を手向け、父を囲んでお茶を飲むことになった。
父はそこでエンジンがかかってしまう。仏壇の横にとある有名建築家の名前が入ったお菓子がドンとわかりやすく置いてあった。父は、一番目立つところにそのお菓子を置いておいたのだろう。
お茶をひと口飲んだ父は、「あそこにあったお菓子、見えたと思うんだけど……」と話し始める。「あれは、あの有名な建築家○◯さんから頂いたものなんだ。実は僕の昔からの友人で、わざわざお母さんのためにお菓子を送ってくれたんですよ。建築家の◯◯さんの代表作、みんな知ってるよね?」と。
四人は、「あー……、はい」と返事をせざるをえない。
「その◯◯さんと初めて会ったのは、僕が四国に転勤していたときのことなんだ。そのとき僕は、◯◯知事の選挙公約も作ったりしていたんだ。◯◯知事は知ってるだろ? その選挙を手伝う中で、建築家を紹介しますということになり、建築家の◯◯さんに会ったんだよ。えっ、あの有名な? と最初はなったけど、すぐに友達になったよ」
四人を見渡すようにして、父は滔々と気持ち良さそうにそうしゃべった。
嘘ではないが、ここでしゃべる話ではない。
自分の中にも、この血が半分入っているかと思うと、これからも自分をちゃんと律しながら生きていかなければ……、と真剣に考えていた。
結局そのあとも父は、「人を大切にしなさい」「人はひとりで生きているわけじゃない」「家族が大切」というテーマを熱く語る。たまに申し訳程度に「お茶足りてるか?」などと目配せをしてくるが、基本は大演説をかました。そこにいた全員「はい……」「あー……、はい」と何度も言わされた。最中、彼らの顔を見ながら、心の中で何度も謝っていた。
父と別れ、駅前の居酒屋に全員で入った。ひとりが「いつも、あんなに講演会みたいなのか?」と笑いながら言う。もうひとりは「いや、でもウチよりいいよ。俺は父親とまともに話したことないからさあ」と、こちらの肩をポンポン叩きながら話す。「俺も何年も話してない」と言うやつがいて、「俺もだなあ」と言うやつもいた。

入った居酒屋の刺身はイマイチだったが、壁には大漁旗が飾られていた。
わざわざ来てもらって申し訳ない、とまずは頭を下げ、まあみんな来てくれて嬉しかったんだとは思うんだけどさあ……、と切り出した。
全員五十を越えた。帰り際、誰かが、「一応写真撮ろうぜ、いつ誰がどーなるかわからないんだからさあ」と言って、店の人に頼んで写真を撮ってもらった。「写真、確認してください」と店の人が言うので、全員で確認すると、まごうことなき、おじさんが五人写っていた。