毎日の「席譲り選手権」 底なしの出会い#27

渋谷のカフェはだいたいどこも、いついかなるときでも満席だ。
先日も朝の八時前から席を取って仕事をしたが、そのときでもう、だいたい七割は埋まっていた。毎日九時半頃には、完全に満席になる。
今日も九時半くらいまで集中して仕事をして、一旦落ち着き、ヌルくなったアーモンドミルクラテをひと口飲んで、大きく伸びをした。そして、ここらで一度、場所を変えてもいいかな、と思い始める。しかし、せっかく席を取ったのに、もったいないかもな、とも思ってしまう。
そこに、いかにも仕事が出来そうな営業マンが現れた。彼はトレーに飲み物を乗せて、席を探している様子だ。一度、間違いなく目が合った。ぱっと見、二十代前半くらいに見える。身なりはきちんとしていた。爽やかな短髪。ハリのあるスーツ。顔も良い。マグカップに入っているのは、本日のコーヒー、といったところか(偏見)。
僕は一度じっくり考えてみる。ひと呼吸。そして結論が出た。うん、こんな若造に席を譲るわけにはいかん、と。せっかく、朝早くから席を確保してきたのだ。そんじょそこらの人間に席を譲るわけにはいかない。特に爽やかなんてもってのほかだ。
次に、杖をついた白髪のおじいさんが、ダメかあ〜、みたいな感じで、店内を眺めているのがわかった。レジには奥さんらしい、これまた白髪の女性が、注文をしている真っ最中なのが見て取れた。
僕が座っているのはテーブル席で、イスは二つ。ついに、ふさわしいふたり組が現れた。僕は荷物を素早くまとめ、おもむろに立ち上がる。そして、絶望的な視線を向けながら店内を眺めていたおじいさんに向かってスッと手を挙げ、「ここ空きます!」と、席譲り選手権の優勝を高らかに伝える。
おじいさんは、満面の笑みになり、軽く会釈までしてくれた。めでたし、めでたし。そんな、席譲り選手権を、誰もが密かにやっているものだと思っていた。
昨日も性懲りもなく渋谷のカフェで、朝の八時過ぎから、編集者と打ち合わせをしながら、席譲り選手権の話をした。編集者には、「そんなことやっている人、聞いたことないですよ……」と見事に呆れられてしまった。
そして、打ち合わせもひと段落したところで、「ではでは席を立ちますか」という話になった。僕たちの席は、またイスが二つのテーブル席。そのときも店内は満員御礼だった。編集者が、「始めるんですね……」と呆れた感じで僕に向かって言う。席譲り選手権の開始が堂々と宣言された。「わかりました。じゃあ、あの人らはどうですか?」小声で編集者が目線を送ってきた先には、高校生くらいの男女のカップルがいた。