「どうだ? まずまずか?」と父が聞いてくる(2月18日)

鶏と椎茸のうどん。『群像』の小説。戌井昭人さん。
燃え殻 2026.02.18
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横浜の実家へ。父は、

母が亡くなってから七キロ体重が減ったらしい。

妹はそんな父のことを心配して、なんだかんだ二、三日に一回顔を出し、夕飯のおかずを作ったり、お茶を一緒に飲んだりしている。

こちらが持ってきた食材やらなんやらを渡すと、「うどん、食べてくだろ?」と父。

妹から、鶏で出汁を取って、うどんを作る工程を習ったらしい。台所には、ネギや椎茸がもう用意されている。「お腹減った」と父に言ってみた。「じゃあ、作るか」と父は笑顔で応えてくれた。

手際よく、うどんを作っていく父を後ろから眺めながら、「へー、すごいね」なんて言う。

「お母さんが、料理習ったら? って言ってくれたのは、俺がひとりになったときに困らないようにだったんだよなあ、多分」

父はうどんを作りながら、ひとり言のようにそう言った。父はいま『男の料理』という男性だけの料理教室に、月に一回通っている。もう今年で八年目だという。

母の病気がわかって、手術をしたのが十年前なので、病気になったあとで、父は料理教室に通い始めたことになる。きっと母は、自分が先に逝くと覚悟して、いろいろ準備をしていたのだろう。

そういえば、洋服のボタンの付け方を、母は入院前に、父に一生懸命教えていた。きっと、準備をしていたんだと思う。

父の作った、鶏と椎茸のうどん。本当に美味しかった。

父の作った、鶏と椎茸のうどん。本当に美味しかった。

うどんの汁を全部飲み干したら、「どうだ? まずまずか?」と父が聞いてくるので、「うまいよ、本当に」と答えた。

「そっか。よかった」父は満足げだ。

昨夜、リビングのイスに座ってウトウトしていたときに、「風邪ひきますよ。お布団で寝てください」と母の声が聞こえた、と父は今日一番嬉しそうに語っていた。「お母さん、心配してるんだよ」とこちらが言うと、「ああ、そうだなあ……」と父。

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