「別れた彼女が置いていった荷物」底なしの出会い#15

小さく絶句する。そんなことがときどきある
燃え殻 2026.02.26
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いじめの被害にあったお子さんを支援している団体の取材を先週受けて、今週はまた別の、いじめの被害にあったお子さんを支援している団体の取材を受けた。

「先週、◯◯という支援団体の取材だったんですよ」と、どうせあとで記事が出ればわかることなので、相手側に伝えると、「あそことは喧嘩して別れたんです」と担当者が笑いながら言った。

「えっ……」僕は小さく絶句して、小さく言葉を失ってしまった。そういう支援をしている団体同士が喧嘩をした、という事態がうまく飲み込めなかった。どちらの担当者もとても優しげな方だった。もっと正直に言えば、いかにも競争社会が苦手そうな、弱さを含んだ優しさを持った、物静かな人に見えた。

いろいろ事情があるのだろうが、彼らと「喧嘩」という言葉がとても食い合わせが悪いように映った。どんな人にも、いろいろと事情がある。人間だもの、だ。でも、いくつになっても、そういう現場に立ち会うと、小さく絶句して、小さく言葉を失ってしまう。

先日、知り合いのデザイナーの家に遊びに行ったときも、小さく絶句してしまった。

彼は、一部では有名なミニマリストだ。YouTubeでミニマリストの日常の実況もしている。彼が住む部屋は、築五十年を超えるマンションをリノベーションしているので、家賃の割には一つひとつの部屋は大きかった。

きれいに整頓された玄関を入って、いつもYouTubeで見慣れたリビングに通された。どこもかしこも、本当に物が少なく、ピシッと片付いている。冷蔵庫の中も、ビックカメラの店頭に並んでいる冷蔵庫かのように、中にはヨーグルト一つとツナ缶二つだけ。

コンビニで買ってきた赤ワインを、二つしかないグラスに注いで、乾杯をした。アルコールを飲むと、僕はトイレが近くなるので、何度かトイレに立った。もちろんトイレの中も清潔で、最低限の物しか置かれていない。どこもかしこも物がない。

何度目かのトイレに立ったとき、玄関のすぐ横にもう一部屋あることに気づいた。リビングでは、気持ちよさそうにレコードをかけ(レコードプレイヤーが一台、レコードは三枚ありました)、鼻歌を歌っている彼の声が、ずっと聞こえていた。

出来心で、僕はその部屋のドアを開けてしまう。中は真っ暗。しばらくして目が慣れてくると、積まれたブランド物の箱が確認できた。女性物の服が何着も山のように床に積まれている。部屋の奥には扇風機が一台と、コードレスの手持ちの掃除機がある。いけないものを見てしまったかのように、僕は背筋がゾッとして、慌ててドアを閉めた。

ふと気づくとリビングで歌っていたはずの彼の声が聞こえない。抜き足差し足、ゆっくりとリビングにつづくドアを開け、おそるおそる覗いてみる。すると彼はベッドに寝っ転がって眠っている。音楽が小さくずっと鳴っていた。

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