「ねぇ、ルルちゃん」底なしの出会い#14

「おーい、クロ」僕はそう呼んでいた
燃え殻 2026.02.19
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渋谷円山町のラブホテル街に仕事部屋がある。一日はだいたい、仕事場にこもって原稿を書いて終わる。外に出るのは、主には昼飯を食べに行くときくらい。昨日、一昨日が、コンビニ弁当、コンビニ弁当とつづいたので、今日は定食屋に焼き魚定食を食べに行くことに決めた。

道すがら、アパートを壊して空き地になっている場所に、一匹の黒猫がいるのが見えた。結構よく見かける、まだ若い黒猫で、人懐っこくて可愛い。

「おーい、クロ」と僕はしゃがんで小さく声をかけてみた。僕は黒猫に勝手に「クロ」と名前をつけていた。「おーい、クロ」その場にしゃがんでもう一度そう呼ぶと、毛繕いをしていたクロが、「ミャア」と一回鳴いて、コロンと転がった。

クロまでの距離は約三メートル。こっちから行くか、と立ち上がったところで、昼休憩のサラリーマン数人がおしゃべりをしながら、こちらに向かって歩いてくるのがわかった。僕はクロとの戯れはあとにすることに決め、定食屋に急ぐことにした。

ラブホテル街として有名な円山町には、実は結構いろいろな店がある。ラーメン屋、うどん屋、スペイン料理、タイ料理。どこも美味しくてリーズナブルだ。その中でも僕は、とある定食屋に週の半分は通っている。

五十を越えて、とにかく体調が芳しくないので、米と味噌汁を出来るだけ摂るよう心がけている。焼き魚定食は週によって、魚の種類が変わる。今日は、さんま二尾だった。

店主が「とれたてで脂が乗った活きがいいさんまだよ〜」と笑顔で言う。円山町のラブホテル街で、とれたてのさんまを食べるというのもだいぶ変な感じだ。でも出てきたさんまは、店主が言う通り、脂がのっていて、皿からはみ出すほど大きくて立派なものだった。

ご飯をおかわりし、すっかり食べ過ぎてしまい、ヨタヨタと帰り道を歩いていると、またあの空き地の前に差しかかった。クロの様子を伺おうとすると、お揃いの白シャツに茶髪という出で立ちの女の子たちが、空き地の中でしゃがんでいるのが見えた。きっと近くの美容専門学校の女の子たちだろう(美容学校の子は、白いシャツに茶髪、という見た目の子が多い)。

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