カフェの行方、ジョンとの思い出(5月25日)
青山一丁目のカフェで打ち合わせ。
「暑いっすねえ〜」と先方に言われたが、沖縄のムンとした湿度をまとった暑さを経験したばかりなので、東京の天候はかなり過ごしやすく感じてしまう。
……が、「暑いっすねえ〜」と話を合わせてしまった。
犬好き編集者から「カフェが本格的にいないです」とLINEが入った。仕事の合間に抜けて、店内もチェックしてきます、と捜索は本格的。
昼すぎに連絡が入る。「店内の奥の奥のゲージに、カフェは移動になっていました」とのこと。ペットショップでは、入口に付近が、可愛い仔犬が並び、売れなかったり、成長すると、だんだんと店の奥に移っていくシステムらしい。
それでも売れなかったらどうなるんですか? とは聞けないかった。
学生時代、柴犬が家にいた。名前はジョン。柴犬のブリーダーをしていた祖父の知り合いから、売り物にならないから、とタダでもらってきた犬だった。
売り物にならない理由は、前歯がちょっと出ていてずっと笑っているみたいだから、ということだったが、そこがとんでもなくキュートだった。
学校が終わると、近くの公園までジョンと一緒に毎日散歩に出かけた。
たまにニヤッと笑ったジョンが(ただの出っ歯です)こちらを向く。「なにがおかしいのだあ」とジョンの顔を両手でグニュッと掴むのが楽しかった。ジョンは掴まれ放題で、ハアハア言うだけ。なにをされてもずっとニヤついているだけのかわいい犬だった(ただの出っ歯です)。
カフェも、ペットショップのゲージから抜け出して、公園で走ったり、ひっくりがえったり、突然立ち止まったりする自由な犬生を送ってほしい。

送ってほしい、と編集者に返信すると、「飼おうか迷ってます。でもその場合引越すことになるんで……」と。いや、無理はよくないです、と一応返した。
下北沢のカフェ(こっちは本当に珈琲などを飲むカフェ! ややこし)で、来年の単行本についての打ち合わせをしていたら、ツカツカツカと寄ってきた若いオシャレ男女が、「沖縄旅行の日記、最高でした!」と声をかけてくれた。読んでる人、本当にいるんだ! と思った瞬間だった。イベント以外で、レターを読んでいる人に初めて声をかけられた。うれしかった。
BIALYSTOCKSの新曲『一瞬』良い。聴きながら下北の街を歩いた。
ジョンは最後、緑内障になり、肺も悪くして、ヨタヨタとしか歩けなくなる。毛布の上で一日ずっと過ごすようになる。食事もなかなか食べない。ほとんど動かない。こちらは頭をさするだけだ。
そんなとき、家に泥棒が入った。ガラス窓が破られる。
「ワンワンワン!」というジョンの声が夜、寝静まった家に響き渡った。吠える力などもう残っていないと思っていたので、家族全員飛び起きて、ジョンの様子を見に行った。
するとジョンは、破られたガラス戸の近くまで自分で歩いて行ったらしく、細かく砕け散ったガラスの上に、へたりこんでいる。
泥棒の姿はなく、祖父が集めていた古銭が入っていた鞄だけが盗まれていた。